夢の女:2

金色の草原が、揺れていた。
風は温かく柔らかかった。
その草原に立つ人影は、傾いた陽光で縁取られ輝いていた。
リューグハルトは歩み寄って行く。
若い娘だった。未だかつて逢った事の無いだった。
長い髪が風に靡いて舞っている。意志の強そうな眉は凛々しく、悪戯な少女を思わせる大きな黒い瞳が愛苦しく、また回転の良さそうな輝きに満ちていた。口元は無邪気に笑みを浮かべ、それで居て肉感的なふくよかさを兼ね備えていた。
リューグハルトは胸に痛みを伴った陶酔を感じた。
長い間、彼女を見詰め続けた。
彼女もまた、リューグハルトを見詰めていた。近寄るに気付いたその娘は、少し驚いたような表情を見せたが、それはすぐに強い好奇心に取って代わった。彼女リューグハルトの頭から爪先までをくるくると良く動く双眸で観察していた。彼女の纏う薄衣が風に大きく揺らめいている。ただ立ち尽くしてお互いを見ている男女であったが、リューグハルトの胸の切なさは甘く高鳴り、であるにも関わらず自分の鼓動、呼吸までが感じられた。それは極めて歓びに満ちた時間だったのだ。
、ではない。
脈絡も無くリューグハルトはそう思った。


yumeonna.jpg


「そう、夢だ。」

の話になって、微かに訝しむジグールに、リューグハルトは答えた。
「夢なんだ。だが、そう、普通の夢じゃなかった。」

これは体験なのだ。自分の記憶の中の出来事の一つに違いない。
そういう想いが、この無骨な僧形の戦士の中の繊細な部分に湧き上がっているらしい。
時を置いて顧みた時に実際の記憶としか思えない痕跡。
それは体験と何ら変わらない実在の色合いを帯びていたのだ
、と言うような意味合いの事をリューグハルトなりの簡素な言葉で表現した。

は繰り返し見る様になった。
最初は何日か置きだったも、暫くすると毎日見る様になった。昼時の転寝の中でも姿を見るようになった。
彼女との距離は縮まり、やがて手を伸ばせば触れられる距離にまで近寄った。しかし手を伸ばそうとは、思わなかった。
リューグハルトは自分の名前を名乗った。
も名乗った。
ミナ、と云う名前だった。
ミナリューグハルトの事を知りたがった。様々な質問をされた。
リューグハルトもまた、彼女の事を知りたいと思った。知りたいと思うあらゆる事を訊き、また尋ねられればどんな事であっても教える事が出来た。
知りたく思うのと等しい量の自分を知って欲しかった。そう云う気分に自然となっている。
二人の交流は何週間にも及んだ。

ミナは西域の大きな宿場に住んでいると云う事だった。
父親は宿場を護る守備隊の隊長であったらしい。西方の匪賊との戦闘で命を落とした。母親以外の男と余生を送る気は全く無く、独り身を通してミナを育てた。
ミナや幼い達を護りたいと思った。
の代わりにならねばならないと思った。
守備隊の武技師範の親友であった。
この武芸者長柄の扱いを仕込まれた。
仕込まれたというよりも、無理を云って、教わった。
師範は友人の遺児が戦闘に携わる事を良しと思っていなかったのだが、ミナは懇願して教授する事を約束させたのだ。
元来運動神経に優れたミナは、師範が思わず気を入れて教えたくなるほどに上達した。
父親を慕う隊員の多い守備隊にミナが入隊するのはごく自然な流れだった。果敢な攻めと俊敏な戦いぶりは同僚の中でも群を抜き、やがて守備隊の中でも三本の指に入る腕利きと目されるようになる。
誰が言うとも無く“強襲のミナ”と呼ばれる女戦士になっていた。その闘い振りが、やはり勇猛果敢であった父親を彷彿させる、と云う者もあった。
ミナは自分の長柄武器の上達に満足して居たし、また日を追って積み重ねられて行く技術の蓄積に手応えを感じても居た。そして何より、武芸に喜びを感じていた。

そんな頃に、を見たのだ。現実と変わらない、不思議なを。

ミナは、黄金の草原で大きな男の姿を見た瞬間に、胸が熱くなった。ときめきと云う感覚だった。頬が火照るのを感じた。その人影が、毎日のの中で接近して来る。そのくっきりとした顔の造作は直截に熱い血を感じさせる。そして力の有る少年の瞳。ミナは、日に日にときめきが高まって来るのが判った。胸が苦しかった。昼が切なかった。

ミナはその性情通り、ただ真っ直ぐに、をしたのだった。


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posted by リューグハルト at 2006年04月13日02:27 | Comment(1) | TrackBack(0) | 外伝
この記事へのコメント
(*ノдノ)
序章からついに。。。

なんだかさ(*ノдノ)
はずかしぃなぁ(*ノдノ)

美那ってば、すごく綺麗やしかっこいいね(*ノдノ)
↑他の人の事をいってるように聞こえますが
自画自賛してますww(*´ε`*)モジ(*´З`*)モジ
スイマセンww
Posted by 美那 at 2006年05月06日 02:18
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